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遺言その7  「相続させる」と「遺贈する」 表現の使い分け

 

民法は、相続人に対しても遺贈を認めていますが(903条1項)、公証実務では「相続させる」という表現をとることが多いので、その経緯について触れたいと思います。

「相続させる」とした場合の効果については、かつて学説、裁判例が分かれていましたが、いわゆる香川判決(平成3年4月19日最高裁第二小法廷判決(民集45巻4号477頁、判時1384号24頁、判タ756号107頁)は「特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」と判示し、遺産分割効果説を採用し、即時権利移転効を認めました。

「相続させる」と「遺贈する」の違いは、前者が一般承継、後者が特別承継であり、登記原因も「平成年月日相続」、「平成年月日遺贈」と別になります。

「遺贈する」であれば、遺言者の死亡後、相続人が債務(登記、引渡し)を履行する必要があり(登記を経なければ第三者に対抗できない。)、登記は双方申請で、登記義務者は遺言者の相続人(全員)となります。

これに対し、「相続させる」は、登記なしにその取得を第三者に対抗でき、登記手続きは相続であることから、受益相続人の単独申請で足ります(なお、不動産を明記せずに「全財産を相続させる。」とした遺言も昭和47年4月17日通達により単独申請で足ります。)。

そして、登録免許税は、かつては「相続させる」が1000分の6、「遺贈する」が1000分の25という違いがありました。農地の特定遺贈は農地法の許可が必要ですが、「相続させる」では不要(ただし、相続人以外でも包括遺贈は許可不要)。遺産が借地権、借家権の場合、相続であり、「譲渡」ではないから、賃貸人の承諾は不要(「遺贈する」では必要)ということになります。

もっとも、「遺贈する」でも、実際には、遺言執行者を選任しておくことにより、登記義務者は相続人(全員)ではなく、遺言執行者がなりますから、それほどの手間ではないかもしれません。また、登録免許税も平成15年4月1日改正で、相続人たる受遺者(ただし、戸籍謄本等を添付)は「相続させる」と同率となり、現在はどちらも1000分の4となりました。